日経サイエンス  2021年5月号

日本に上陸 mRNAワクチンの実力

出村政彬 協力:長谷川秀樹(国立感染症研究所)

国内でもついに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が始まった。2月から接種が進む米製薬大手ファイザーとドイツのバイオ製薬ビオンテックが開発したワクチンは「mRNAワクチン」と呼ばれるタイプで,COVID-19で初めて実用化した。国内で審査が進む英製薬大手アストラゼネカ製のワクチンは「ウイルスベクターワクチン」と呼ぶ別のタイプで,こちらも2019年に登場したばかりだ。私たちが打つことになるこれらのワクチンには,21世紀に入って確立された最先端のバイオテクノロジーが詰まっている。

mRNAワクチンは急に登場した技術のように見えるが,その研究開発の始まりは30年前に遡る。1990年,米ウィスコンシン大学の研究チームがmRNAをマウスに投与し,筋細胞でタンパク質を作らせる実験に成功したとScience誌に報告した。注射したmRNAが動物の体内で正常に働くことがわかり,病気の治療やワクチンにmRNAを使うアイデアが生まれた。実は,もう1つの「ウイルスベクターワクチン」も開発の機運が高まったのはちょうど30年前だ。どうしてたった1年でCOVID-19のワクチンが完成したのかと言えば,それはパンデミックが起きる30年前からこれらのワクチンが研究されてきたからに他ならない。

これらのワクチンは臨床試験で効果と安全性が確かめられ,実際の接種でも高い効果を示すデータが得られはじめている。ただ,大勢の人が接種を受けるとまれな副反応が生じる可能性もある。世界中で報告が相次ぐウイルス変異の影響も見通せず,不確定な要素はまだ多い。そこで,副反応に対処するための情報収集システムの運用や,変異し続けるウイルスに対応するための準備も進んでいる。



再録:別冊日経サイエンス246「感染症Ⅱ 新型コロナと闘う」

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