日経サイエンス  2021年2月号

特集:AIに言葉の意味はわかるか

進化する自然言語処理

吉川和輝(日本経済新聞) 協力:戸次大介(お茶の水女子大学)

2020年10月,英語圏で人気の投稿サイト「Reddit」に,あるアカウントが登場した。毎日のように投稿し,ほかのRedditユーザーとも会話を交わした。過去に自殺を試みたユーザーには,こんなふうに語りかけた。「私を最も助けてくれたのは,おそらく両親だと思います。(略)人生で何度も自殺したいと思ったことがありましたが,両親のおかげで自殺はしませんでした」。共感したユーザーから約150件の「いいね!」がつけられたが,実はこのアカウントは,ネット上で特定のタスクをこなすボットだった。そしてそのコメントは,誰でも利用できる最新の人工知能(AI)によって生成されていた。

AIが人間と区別ができないほど巧みな文章を生成したり,ロボットが人間と見まごうばかりの会話を進めたりする場面は,急速に身近になっている。それを可能にしたのは,コンピューターで言葉を扱う自然言語処理技術の急速な進展だ。だが,AIは言葉の意味を理解しているのだろうか?

著者

吉川和輝(よしかわ・かずき) / 協力 戸次大介(べっき・だいすけ)

日本経済新聞社編集委員。1982年入社,産業部,ソウル支局などを経て科学技術部記者に。米マサチューセッツ工科大学で科学ジャーナリズムを学んだ。2012~2015年に日経サイエンスの発行人を務めた。現在はエマージングテクノロジー,物理学,宇宙開発,科学技術政策などのテーマで執筆している。

お茶の水女子大学准教授。数理言語学,理論言語学,計算言語学が専門で,言語学とAI自然言語処理の両分野に通じる。著書に『数理論理学』(東京大学出版会)など。

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