
本記事は2020年のノーベル物理学賞を受賞することが決まったペンローズ(Roger Penrose)が,1972年にSCIENTIFIC AMERICANに寄稿した記事の和訳である。今回の授賞理由になったブラックホールの理論的予測について,ペンローズ自身が一般向けにわかりやすく解説したもので,今読んでもほとんどそのまま,ブラックホールについての行き届いた解説文になっている。特にブラックホールと宇宙の特異点の関係が明快に書かれており,ノーベル賞委員会の発表文で疑問を持った向きにはその答えとなろう。
私は,国際学会などでペンローズの講演を聴くたびに,手描きの絵を使ったわかりやすい説明とユーモアに感心し,自分の主張の軽重を吟味しながら話を進める姿勢に学者の模範を見る。端正な三揃いに身を包んで,明るい瞳で面白そうに語る英国紳士でもある。本記事は,そうした氏の人柄を彷彿とさせる語り口が随所に見られる。その辺りも楽しんで頂きたい。(細谷暁夫・東京工業大学名誉教授による序文より)
著者
Roger Penrose
英オックスフォード大学名誉教授。この記事を執筆した1972年はロンドン大学の数学教授。当時の著者紹介には,「ケンブリッジ大学で研究を行っていた期間に理論物理への興味がわいた」「現在,最も力を入れて研究しているのは,基本的な物理過程を,普通とは違った構造で記述することができるような理論をつくることである」と書かれている。
初出
「宇宙の謎”ブラック・ホール”」サイエンス(日経サイエンスの前身)1972年7月号。
原題名
Black Holes(SCIENTIFIC AMERICAN July 1972)