日経サイエンス  2021年1月号

特集:科学の近代史 発見と過ちの175年

感染症との終わりなき戦い コレラから新型コロナまで

M. マッケンナ(ジャーナリスト)

20世紀,感染症の予防と治療は劇的に進歩した。米国人の平均余命は47歳から76歳へと飛躍的に延び,天然痘は撲滅され,ポリオは激減した。専門家は,感染症との戦いは将来「退屈なものになる」と予測した。

だが予測は外れた。1980年代に出現したAIDSは世界に蔓延し,その後もハンタウイルスの流行,抗生物質が効かない細菌「スーパーバグ」の出現などが相次ぎ,今また新型コロナウイルスのパンデミックが起きている。

人口の増加,移動のグローバル化,気候変動,都市化,大規模な開拓などにより,新興感染症が出現する危険性は増している。いったん流行が始まると,貧困が感染拡大の最大の要因となる。新興感染症に対抗するには,不断の研究と社会の変革が必要だ。



再録:別冊日経サイエンス246「感染症Ⅱ 新型コロナと闘う」

著者

Maryn Mckenna

公衆衛生,グローバルヘルス,食料政策を専門とするジャーナリスト。エモリー大学人間健康研究センター主席研究員。近著に「Big Chicken: The Incredible Story of How Antibiotics Created Modern Agriculture and Changed the Way the World Eats」(ナショナル・ジオグラフィクス・ブックス,2017年)がある。

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不平等が蝕む健康」,R. M. サポルスキー,日経サイエンス2018 年5 月号。

原題名

Return of the Germs(SCIENTIFIC AMERICAN September 2020)

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