日経サイエンス  2021年1月号

特集:科学の近代史 発見と過ちの175年

編集部

 日経サイエンスに掲載されている海外の記事は,米SCIENTIFIC AMERICAN誌の和訳である。同誌は1845年,日本でいえば江戸時代後期,ペリーの黒船来航の8年前に,米国の発明家ポーター(Rufus Porter)によって創刊された。当初は新たな発明や特許情報を伝えるニュースレターとして始まり,ほどなく別の出版社が買収して,一般向けの科学誌として成功を収めた。第二次世界大戦後に業績が悪化し破産状態に陥ったが,米Life誌の編集者だったピール(Gerard Piel)が「原子の時代」の到来を感じ,確かな情報に基づいて科学の利用を議論する場としてSCIENTIFIC AMERICANを立て直した。そして一流の科学者が分野の進展を解説し,編集者がその文章を読みやすく翻訳するという今も続く編集方法を確立した(44ページ「発禁処分になった水爆解説記事」)。それから約20年後の1971年に日本版の『日経サイエンス』(当時は『サイエンス』)が創刊され,2021年に50周年を迎える。

 SCIENTIFIC AMERICANは現在も続く月刊誌としては米国で最も古く,科学がどう伝えられてきたかを示す歴史的な資料にもなっている。本特集では創刊175周年を機に,これまでの記事を統計的に解析し,科学を語る言葉が時代とともにどう変わってきたかを探る。(28ページ「科学を語る言葉 テキスト解析が示す変遷」)。また科学の名の下に女性や先住民への差別を正当化し,優生学を支持した負の歴史を検証する(38ページ「過去の偏見を検証する」)。そして「技術と発明」「感染症との戦い」「宇宙観の発展」「人類進化」「地球史の中の人類」の5分野で,近代以降の科学の発展を振り返り,未来を展望する。