
素粒子ニュートリノを観測するT2K実験の牽引者
装置を工夫し「CP対称性の破れ」の実証を目指す
宇宙誕生の謎を解き明かそうとしている
なぜ我々の宇宙は物質でできていて,対になる反物質は存在しないのか。その謎を解く鍵を握ると期待されている素粒子ニュートリノの研究は,小柴昌俊や梶田隆章のノーベル物理学賞受賞につながった。茨城県東海村の加速器施設「J-PARC」から打ち出したニュートリノを岐阜県飛驒市の観測施設「スーパーカミオカンデ」で捉えるT2K実験は,そうしたニュートリノ研究の最先端プロジェクト。京都大学准教授の市川温子は立ち上げから参加し,現在は世界中の研究者約500人を牽引する存在だ。 (文中敬称略)
「『CP対称性の破れ』を見たい。それがモチベーション。気づくと20年たっていた」。こう話す市川の目標に大きく近づく一歩となる論文が2020年4月,英科学誌Natureに掲載された。T2K実験のデータから,CP対称性がどのくらい破れているかを示すCP位相角に初めて制限をつけることに成功したのだ。
市川温子(いちかわ・あつこ) 京都大学大学院理学研究科准教授。1970年愛知県生まれ。1994年京都大学理学部卒,2001年京大大学院理学研究科博士課程修了。高エネルギー加速器研究機構(KEK)助手などを経て2007年より現職。2014年に湯浅年子賞,2020年に猿橋賞を受賞。2019年からT2K実験の代表者を務める。2020年10月からは東北大学教授を兼務している