日経サイエンス  2020年12月号

特集:COVID-19 終わらないパンデミック

パンデミックが変えた睡眠と夢

T. ニールセン

COVID-19は,私たちの夢の世界を変えた。ロックダウンによって,多くの人がよく長く,より遅くまで眠るようになった。中国では就寝時刻が1週間の平均で26分,起床時刻が72分遅くなり,同様の傾向はイタリアや米国にも見られる。

長く眠ると,レム睡眠(急速眼球運動睡眠)の時間が長くなる。人はレム睡眠の間に,鮮明で感情を伴う夢を見る。朝は特にレム睡眠が多くなり,夢を見やすい。パンデミックが始まってから,コロナウイルスやソーシャルディスタンシングに関する鮮明で奇妙な夢を見たという報告が世界中で増加している。夢の急増は9.11の後などにも起きたが,今回は世界規模かつSNS時代に起きたという点で前例がない。

夢には問題解決を助ける,恐怖の記憶を消去する,社会的状況をシミュレーションするなど,非常に幅広い機能がある。パンデミックによって人類の夢に恒久的な変化が起きる可能性があるが,ポストコロナ時代における長期的な適応にどう影響するかは未知数だ。



再録:別冊日経サイエンス255『新版 意識と感覚の脳科学』
再録:別冊日経サイエンス243「脳と心の科学 意識,睡眠,知能,心と社会」

著者

Tore Nielsen

カナダのモントリオール大学の精神医学教授。夢と悪夢を専門とする研究室を主宰している。

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明晰夢の効用」,U. フォス,日経サイエンス2013年11月号。

原題名

Infectious Dreams(SCIENTIFIC AMERICAN October 2020)

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