
「ここにいてはダメです」。東京都江戸川区が大規模水害に備えて2019年5月に公表したハザードマップは,表紙でこう明言している。33ページの冊子には高潮や洪水による浸水範囲を予想した地図に加え,随所に「域外への全員避難」を促すメッセージが書かれ,これほど強い調子で避難を求めるハザードマップは異例だ。
背景には,ハザードマップをただ公表しても,いざというときに必ずしも避難に結びつかないという実情がある。リスクを過小評価し「わが身には起きない」と考える「正常性バイアス」が働くためだ。被災地の3県11市町のうち洪水の恐れのある低地の住民に聞いた調査でも,「(自分の地域は)安全」「まあ安全」と考えていた人が7割に達した。
予報だけでは,人はなかなか動くことができない。迅速な避難を後押しするには,どうしたらよいのか。地域と専門家が協力した取り組みを紹介する。
著者
久保田啓介(くぼた・けいすけ)
日本経済新聞編集委員。阪神大震災,新潟県中越地震,東日本大震災,東京電力福島第1原発事故などを取材し,防災・減災について報じてきた。阪神・淡路大震災復興記念「人と防災未来センター」リサーチフェロー。2020年9月まで東京工業大学非常勤講師。