日経サイエンス  2020年5月号

南米コロンビアの生物多様性 内戦終結で新たな課題

R. ニュワー(サイエンスライター)

コロンビア北東部のはずれ,クバラの空には朝からずっと紫色の厚い雲が垂れ込め,埃っぽい風が吹き,陰と霧が山肌の木々を覆っていた。ついに雨が降り始めるといきなり土砂降りとなり,トタン屋根を激しく打ち,排水溝からあふれた水は道路を川に変えた。首都ボゴタから着いたばかりの生物学者チームは,玄関先で雨が止むのを待ちながら任務に備えるしかなかった。その任務は,できるだけ多くの種類の鳥を見つけて記録することだ。

この町でこの種の調査が行われるのは1961年以来のことだ。数年前まではあまりにも危険だったためだ。

かつてゲリラと武装組織,コロンビア軍が頻繁に衝突し,一般人の立ち入りが不可能だった悪名高い地域の真ん中にクバラは位置している。2016年,コロンビア政府は同国最大の反政府組織であるコロンビア革命軍(FARC)と停戦協定を結び,西半球で最も長く続いた紛争が終結した。銃声は止んだものの,人々には暴力の記憶がまだ生々しく残っている。調査チームを出迎えたクバラの副市長はこう話した。「無事に到着されて何よりでした。みな怖がって,ここに来る人はほんのわずかなのです」。

デリケートな平和が訪れたいま,クバラは同様の何千もの町とともに,ゆっくりと息を吹き返しつつある。戦闘の終わりは,復興を望む地域社会だけでなくアレクサンダー・フォン・フンボルト生物資源研究所の科学者にとっても新たな始まりとなった。


再録:別冊日経サイエンス244「動物の行動と進化 環境が育んだ驚異」
再録:別冊日経サイエンス253『世界の現場から 実践SDGs 格差・環境・食糧問題の現実解』

著者

Rachel Nuwer

フリーランスのジャーナリスト。著書に「Poached: Inside the Dark World of Wildlife Trafficking」(ダ・カーポプレス, 2018年)がある。ニューヨークのブルックリン在住。

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原題名

Conservation after Conflict(SCIENTIFIC AMERICAN November 2019)

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