
大正から昭和初期に活躍した岩手県生まれの作家,宮沢賢治の小説「風の又三郎」の先駆的作品「風野又三郎」では風の精,又三郎が同県水沢の臨時緯度観測所に立ち寄る。賢治自身も何度も訪ねたようだ。明治時代にできた同観測所は星の日周運動から緯度変化を探る国際的な天文台だが,国内有数の気象台であり地震観測所でもあった。大気や大地を調べたのは同観測所で発見された,緯度変化をもたらす「Z項」の原因を探るためだ。大正時代半ばに「臨時」の冠が取れ,緯度観測所に改称されて以降は,より大掛かりな観測が実施された。改称当時に建てられた緯度観測所本館は,その後身である国立天文台水沢キャンパスで大切に保存,活用されている。 (文中敬称略)
再録:別冊日経サイエンス245「天文遺産 宇宙を拓いた日本の天文学者たち」