日経サイエンス  2020年1月号

特集:深海生物

光るサメの謎

出村政彬(編集部) 協力:佐藤圭一 大場裕一(中部大学) 近江谷克裕(産業技術総合研究所)

「深海」と聞いて思い浮かぶのは,どこまでも真っ暗闇の冷たい世界だ。しかし実際は,そこは夜空のように生物たちの光が点在する賑やかな場所かもしれない。青白く光るサメに,チカチカ輝くヒカリキンメダイ。生物の発光現象は時代を超えて多くの科学者を魅了してきた。

2018年9月,沖縄美ら海水族館の佐藤圭一統括らは沖縄本島近海の深海で「光るサメ」の撮影に成功した。深海に暮らすサメの一種,ヒレタカフジクジラはこれまでも水槽の中で光る様子が確認されていたが,深海底における「野生の発光」をとらえたのはこれが初めてだ。光るサメの詳しい研究によって,彼らが異なる手法を使って体の様々な部位を光らせていることもわかってきた。

「ここまでやるのか」。2019年11月には中部大学の大場裕一教授らが,深海に暮らす発光魚がスポットライトのように狙った場所へ光を放つ巧妙な仕組みを明らかにした。光線の向きを緻密に制御する彼らは,さながら深海の「光学技師」のようだ。

どうして発光する生物たちの「光る仕組み」はこれほどに巧妙で,また多様なのだろうか。これは発光生物を研究する生物学者たちを悩ます大きな問いであり,進化という現象そのものに対する問いでもある。近年,分子生物学を武器にしたこの問いへの挑戦も始まった。進化の新たな側面に光が当たり始めている。

再録:別冊日経サイエンス261『生命輝く海 ダイナミックな生物の世界』

協力:佐藤圭一(さとう・けいいち) / 大場裕一(おおば・ゆういち) / 近江谷克裕(おおみや・よしひろ)
佐藤は沖縄美ら島財団水族館事業部統括で,軟骨魚類学が専門。サメやエイの生態や生理,繁殖について研究している。大場は中部大学教授。専門は発光生物学で,生物種を問わず発光する生物全般を研究対象としている。近江谷は産業技術総合研究所首席研究員。光る生物の採集から生物発光の応用まで,幅広く手がける。

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