日経サイエンス  2019年11月号

特集:北極融解

編集部

北極圏は劇的に変化しつつある。北極海では海氷減少と気温,海水温の急上昇が続いている。今後も海氷減少は止まらず,早ければ2030年代後半には夏場の北極海から海氷がほとんどなくなる可能性がある。陸域では永久凍土の融解が進んでいる。こうした環境変化は藻類から樹木,魚,トナカイまですべての種類の生物に影響を及ぼし,生息域を拡大したり移動を変えたりしており,生存が困難になっている例もある。

北極海に面する5カ国はそれぞれ北極海の海底の大きな領域について権利を主張しており,それらの領域には重なっている部分がある。地政学的緊張の高まりが科学を無力にすることのないよう,地質学的な根拠に基づいて境界を決定する外交上の調整が可能だ。ただし時間はかかる。

ロシアが北極における軍事的プレゼンスを拡大する一方,NATO(北大西洋条約機構)は大規模な軍事演習を実行している。軍事的緊張が高まる兆しではあるが,衝突が避けられないわけではない。協力して北極を開発するほうが得られるものが大きいと各国が判断する余地はあるだろう。

 

 

氷が消える海  中島林彦 協力:菊地 隆
北極海争奪戦  M.フィシェッティ
にらみ合いの行方  K. スティーブン

 

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