日経サイエンス  2019年7月号

フロントランナー挑む 第93回

離散数学で若手輩出 次は基礎研究の強化:河原林健一

永田好生(日本経済新聞社科学技術部次長)

数学と情報科学にまたがる分野で国際的な評価を獲得
20代や30代の若手研究者の育成で手腕を発揮した
基礎研究に打ち込み社会の基盤づくりを目指す

 

 

数学と情報科学にまたがる分野は日本が弱いとされてきた分野。そこで奮闘しているのが国立情報学研究所教授の河原林健一だ。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)「河原林巨大グラフ」プロジェクトを率いて,AI(人工知能)の応用や機械学習などの世界トップの国際会議で研究成果を発表してきた。5〜10年後に世界で活躍する研究者を輩出しようと,若い研究者の発掘と育成に力を注いでいる。 (文中敬称略)

インターネット分野で圧倒的な存在感を示すGAFA(グーグル,アマゾン,フェイスブック,アップル)に代表されるように,情報通信で日本企業は海外企業に負けている。河原林はこんな状況を「我慢ならない」と,ずっと感じていた。「かつて世界を席巻した電機各社のような勢いを日本が取り戻すにはどうしたらよいか」。熱い思いを抱きながら,河原林は劣勢を挽回する手立てを冷静に考え続けた。




再録:別冊日経サイエンス248『科学を仕事にするということ 未来を拓く30人』

河原林健一(かわらばやし・けんいち)
国立情報学研究所教授・副所長。1975年東京都生まれ。慶應義塾大学理工学部卒,2001年慶大大学院理工学研究科博士課程修了。米プリンストン大博士研究員,東北大学助手,国立情報学研究所助教授,同教授などを経て2019年から現職。2012年科学技術振興機構「河原林巨大グラフ」プロジェクト研究総括。日本IBM科学賞や日本学士院学術奨励賞など受賞。

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