
睡眠学習はかつて米国でブームになったが,1950年代に睡眠中に聞いたことは記憶されないことがわかると,期待は急速にしぼんだ。だが最近の神経科学の研究から,学習の重要な部分が睡眠中に起こることが示された。目覚めている間の新たに得た記憶は,夜間に脳内で蘇る。この再生プロセスによって,記憶したことの少なくとも一部が,長く脳内に残っていく。
睡眠中に日中の記憶に関連した音や匂いなどの刺激を与えると,記憶が増強できることが実験から明らかになった。マウスに架空の記憶を移植する初歩的な動物実験も行われている。眠っている間に特定の場所の記憶と報酬系を関連づけると,目覚めてからのマウスの行動が変わる。
眠っている間に英語を聞いても,話せるようにはならない。だが人が深い眠りの中にあるときに記憶を強化したり,それ以上の操作をすることは,どうやら可能であるようだ。それは新しい形の「睡眠学習」となるかもしれない。
再録:別冊日経サイエンス243「脳と心の科学 意識,睡眠,知能,心と社会」
著者
Ken A. Paller / Delphine Oudiette
パラーはノースウェスタン大学の心理学教授で認知神経科学プログラムのディレクターを務めている。標的記憶再活性化に関する最近の研究は,全米科学財団(NSF)から資金を得て実施した。ウディエットは仏国立保健医学研究機構研究員。パリにある脳脊髄研究所およびピティエ=サルペトリエール病院睡眠障害ユニットに所属する。
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「記憶・免疫・ホルモンを活性化 睡眠パワーに迫る」,R. スティックゴールド,日経サイエンス2016年1月号。
「眠りが刈り込む余計な記憶」,G. トノーニ,C. チレッリ,日経サイエンス2013年11月号。
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