
誰もが知っており,毎日やっているのに,その仕組みや理由がよくわからない。そんなものの代表例が「睡眠」だ。クラゲ,線虫,魚,トカゲ,鳥,ネズミ,そして人間まで,多くの動物が睡眠をとる。忍び寄る天敵の足音に気づかないまま命を奪われるリスクを冒してまで眠るからには,それに見合う理由があるはずだ。だが意外なことに,動物がなぜ睡眠をとる必要があるのか,今の科学ではわかっていない。
睡眠が不足すると明らかに記憶力や集中力が下がり,長期にわたって続けば健康を損なう。そのため睡眠は「身体を休めるため」「脳を休めるため」に必要と言われることが多いが,身体はともかく,脳は睡眠中も活発に活動している。睡眠の間,脳内ではいったい何が起こっており,それは個体の能力や健康にどのようにして影響を与えるのだろうか?
最近の研究から,その解明の糸口が見えてきた。「眠気」の物質的な正体の解明につながる可能性のある,脳内のある変化が明らかになったのだ。授業や会議でウトウトしてしまうことの多い季節だが,そんな眠気の研究が,私たちが眠る理由を追究するヒントになるかもしれない。
再録:別冊日経サイエンス243「脳と心の科学 意識,睡眠,知能,心と社会」
著者
柳沢正史(やなぎさわ・まさし) / 詫摩雅子(たくま・まさこ)
柳沢は文部科学省の世界トップクラス研究拠点プログラム(WPI)の1つである筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の機構長。筑波大学医学専門学群から同大学院医学研究科博士課程に進む。修了後,テキサス大学サウスウェスタン医学センターやハワードヒューズ医学研究所の勤務を経て,2010年に帰国。2012年より現職。
詫摩は日本経済新聞科学技術部,日経サイエンス編集部を経て,2011年より日本科学未来館に勤務。
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「特集 眠りと夢の脳科学」日経サイエンス2013年11月号
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