日経サイエンス  2019年5月号

宇宙の暗黒問題

暗黒物質は幻か? 修正重力理論の新たな展開

S. ホッセンフェルダー(独フランクフルト高等研究所) S. S. マッガウ(ケース・ウェスタン・リザーブ大学)

宇宙には見える物質だけでは説明できない現象がある。例えば,銀河中心から遠く離れたところにある星の運動や,銀河団の中の一部の銀河の運動は,“見える”物質の質量だけでは説明できない。“足りない”質量を補うために「暗黒物質」の存在が仮定されてるが,これまでに行われた幾多の実験や観測でその証拠は見つかっていない。

 

著者らは暗黒物質に変わるアイデア「修正重力理論」を今こそ真剣に検討すべきだと主張する。修正重力理論はアインシュタインの重力方程式を修正するもので,重力が質量からどう生じるかを決める数学的な法則を変えるものだ。だがこの理論はこれまでほとんど注目されてこなかった。

 

現時点で修正重力理論にも暗黒物質仮説にも一長一短がある。両者の中間に正解があることを示唆する研究結果もあり,修正重力理論を検討する価値は十分にあるだろう。

著者

Sabine Hossenfelder / Stacy S. McGaugh

ホッセンフェルダーは独フランクフルト高等研究所の理論物理学者で,標準モデルを超える物理学を研究。物理学がテーマのブログBackreactionを書き,「Lost in Math: How Beauty Leads Physics Astray」(Basic Books,2018年)の著者でもある。

マッガウはケース・ウェスタン・リザーブ大学の宇宙物理学者で,主に低表面輝度銀河を研究。低表面輝度銀河は修正重力と暗黒物質についての強力な検証手段を与えてくれる。

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本当は存在しない? 暗黒物質」,M. ミルグロム,日経サイエンス2002年11月号。
ダーク銀河の謎」,B. A. ドブレスク/D. リンカーン,日経サイエンス2015年10月号。

原題名

Is Dark Matter Real?(SCIENTIFIC AMERICAN August 2018)

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