日経サイエンス  2019年4月号

走る動物 ヒト

運動しなければならない進化上の理由

H. ポンツァー(デューク大学)

私たちが健康であるためには,運動をしなければならない。1日に1万歩以上歩かないと心血管疾患や代謝疾患のリスクが高まると言われている。

 

一方,チンパンジーなど近縁の大型類人猿は“怠惰”な生活を送っているにもかかわらず,驚くほど健康だ。彼らは日中の8〜10時間を休息とグルーミング,食事にあて,一晩に9〜10時間の睡眠を取るが,飼育下でも糖尿病にかかることはまれで,年齢とともに血圧が上がることもない。また,心臓病になることもなく,冠動脈閉塞による心臓発作も起こさない。さらに,ゴリラとオランウータンの平均体脂肪率は14〜23%,チンパンジーに至っては10%未満で,オリンピック選手と同等だ。

 

このような違いはどうして生じたのだろう。人類の生理機能が狩猟採集に必要とされる肉体的に活発な生活スタイルに適応したためだと著者は主張する。



再録:別冊日経サイエンス250「『病』のサイエンス」
再録:別冊日経サイエンス242「人間らしさの起源 社会性,知性,技術の進化」

著者

Herman Pontzer

デューク大学の進化人類学准教授。進化がどのように人間の生理機能と健康を形づくったかを研究している。

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運動のパラドックス なぜやせられないのか」,H. ポンツァー,日経サイエンス2017年4月号。

原題名

Evolved to Exercise(SCIENTIFIC AMERICAN January 2019)

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