
ヒトはなぜ戦争をするのだろうか。個人的な殺人ではない,組織を作ってほかの集団のメンバーを殺す「戦争」という行動は,ヒトという種が進化の過程で獲得した生来の性質によって引き起こされるのか,それとも文化や社会が発達し条件が整ったところで始まるのか。研究者たちは,戦争はヒトの本能であると考えるタカ派と,そんなことはないとするハト派との2つの立場に分かれ,論争を展開している。
もし戦争がヒトの生まれつきの傾向の表れだとすれば,先史時代を通じて,考古学的記録には小規模集団における戦争の証拠が常に見つかるはずだ。タカ派によれば,そうした証拠は確かにあるという。ハト派の考古学者・人類学者は,こうした見方を批判する。ヒトは確かに戦争を実行する能力を備えているが,生まれながら脳にプログラムされているわけではないとする。この立場から見ると,集団的殺戮が登場するのは,狩猟採集社会が規模と複雑さを増し,農耕が始まったころだ。
本稿では発掘調査などで明らかになった考古学や民族誌の記録を検討し,「戦争は人間の本能である」という説を検証する。また自然哲学者・中尾央によるコラム「日本で戦争が始まったのはいつか」を併せて掲載する。
再録:別冊日経サイエンス251『「戦争」の現在 核兵器・サイバー攻撃・安全保障』
再録:別冊日経サイエンス236「心と行動の科学」
著者
R. Brian Ferguson
ラトガーズ大学の人類学教授。長年のキャリアを戦争とその原因の解明に捧げてきた。
原題名
Why We Fight(SCIENTIFIC AMERICAN September 2018)
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