
抗がん剤や放射線治療が腫瘍を直接攻撃するのに対し,免疫療法は身体自身の防御機能を引き出して悪性腫瘍と闘わせる。従来の免疫療法のほとんどは,免疫細胞の力を増強してがんを攻撃しようとしていた。アクセルを踏んで車を加速するようなやり方だが,残念ながら効果は限定的で,がん治療の主流にはなり得ないと見られていた。
だが1990年代に入ると,当時カリフォルニア大学バークレー校にいたアリソン(James P. Allison)氏らが,体の免疫応答の暴走を抑えるCTLA-4を一時的に無効にすれば免疫ががん細胞を攻撃でき,腫瘍が縮小するのではないかと予想。マウスの実験で狙い通りの効果を上げ,「免疫療法はたいして効かない」という見方を覆した。2011年,米FDAは,CTLA-4を抑える抗体を使った新たな抗がん剤イピリムマブを承認。またこれとは独立に京都大学の本庶佑氏らが研究していたPD-1も違う機構で免疫にブレーキをかけていることがわかり,その抗体を使った抗がん剤「ニボルマブ」は2014年に承認を取得した。
著者
Jedd D. Wolchok
スローン・ケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)の黒色腫・免疫療法科の主任。製薬会社であるブリストル・マイヤーズスクイブ,メルク,メドイミューン,EMDセローノの顧問を務めているが,この記事で紹介した治療法をめぐる経済的利害関係はない。
初出 日経サイエンス2015年1月号「がん免疫療法の新アプローチ」。再掲に当たり改題し,当時と異なる点などについて監修の茶本健司京都大学特定准教授が補足した。
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「がんワクチン新時代」,E. フォン・ホフ,日経サイエンス2012年1月号。
原題名
Cancer’s Off Switch(SCIENTIFIC AMERICAN May 2014)