日経サイエンス  2018年9月号

特集:究極の未解決問題

知りうることに限界はあるか?

M. グライサー(ダートマス大学)

 研究に熱中していてしばしば見逃されるのは,科学の方法が調査対象の系との相互作用を必要とするという事実だ。私たちは系の振る舞いを観測し,その特性を計測し,系をよりよく理解するために数学的あるいは概念的なモデルを構築する。そしてそのために,自分たちの感覚が及ばない領域を探る道具を必要とする。非常に小さなもの,非常に高速なもの,非常に遠くにあるもの,脳のなかや地球の中心部など実質的にアクセス不能なものなどには感覚が及ばない。私たちが観測しているのは自然そのものではなく,機械によって私たちが収集したデータを通じて認識された自然の姿だ。
 したがって,科学的世界観は計器を通じて獲得できた情報に左右される。そして,私たちが利用する道具には限りがあるから,私たちの世界観も近視眼的にならざるを得ない。自然を把握できるのはその範囲までであり,人類の科学的世界観が常に変わってきたのは,実在を感知する私たちの方法にこうした基本的な制限が存在することの反映だ。

著者

Marcelo Gleiser

ダートマス大学で自然哲学のアップルトン記念教授および物理学と天文学の教授を務めている。同大学にある学際研究所の所長。著書に「The Island of Knowledge: The Limits of Science and the Search for Meaning」(2014年)など。

原題名

How Much Can We Know?(SCIENTIFIC AMERICAN June 2018)

サイト内の関連記事を読む