日経サイエンス  2018年9月号

特集:究極の未解決問題

暗黒物質とは何か

L. ランドール(ハーバード大学)

 宇宙物理学者と天文学者はこの宇宙の物質の大半が「暗黒物質(ダークマター)」だと結論づけている。私たちが通常の物質を見るときのような電磁気的な影響を通じてではなく,重力の効果からその存在が推論されている物質だ。暗黒物質は物理学のなかで最も単純明快な概念のひとつだが,私たち人間の視点のせいで不可解となる。人間の五感はすべて,電磁相互作用がもとになっている。例えば視覚は光に対する感受性に基づいている。光はある周波数帯に属する電磁波だ。ありふれた物質が目に見えるのは,それを構成している原子が光を放出または吸収するからだ。それら原子のなかの電子や陽子が電荷を帯びていることが,視覚を可能にしている。
 だが,物質が原子からできている必要はない。宇宙の物質の大半は何かまったく別のものでできている可能性がある。

著者

Lisa Randall

ハーバード大学教授でSCIENTIFIC AMERICAN の編集顧問。『ダークマターと恐竜絶滅 新理論で宇宙の謎に迫る』(邦訳はNHK出版,2016年)など著書多数。

原題名

What Is Dark Matter?(SCIENTIFIC AMERICAN June 2018)

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