日経サイエンス  2018年9月号

特集:究極の未解決問題

時空とは何か

G. マッサー(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

空間は当然のものと考えられてきた。空間とはつまりは空っぽであり,その他すべての背景だ。時間も同様に,単に絶え間なく経過していく。だが物理学者が数々の理論の統合を目指すその長い苦闘から学んだものがあるとすれば,それは空間と時間が驚異的に複雑な1つの系を形成していて,その理解を試みるいかなる努力も寄せつけないかもしれないということだ。

 

アインシュタイン(Albert Einstein)は1916年11月に,早くもそれに気づいていた。一般相対性理論をまとめる1年前だ。一般相対論は重力を,空間を伝わる力ではなく,時空そのものが持つ性質であると考える。空高く投げ上げたボールが弧を描いて地面に戻ってくるのは,地球が周囲の時空をゆがめているためで,それによってボールの軌跡が地面と再び交わるからだ。アインシュタインは友人に宛てた手紙のなかで,一般相対論と,彼の別の考案である草創期の量子力学理論を融合することの困難を嘆いた。両者を統合しようとすると空間が単にゆがむだけではすまず,解体してしまう。数学的にどこから手をつければよいのか,まるで見当がつかなかった。「自分自身の考案にこんな形でこうも苦しめられるとは!」と書いている。

 

この問題について,アインシュタインはたいした前進なしに終わった。量子重力理論に関しては現在も数多くのアイデアが競合している。このテーマを研究する科学者の人数とほぼ同数の理論があるといえる。そうした論議に目を奪われると,ある重要な事実を見落とす。それら競合するアプローチのすべてが,空間はもっと根本的な何かから生じると述べていることだ。

原題名

What Is Spacetime?(SCIENTIFIC AMERICAN June 2018)

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