日経サイエンス  2018年9月号

特集:恐竜大進化

ファルコンズ・アイ小林快次に聞く 恐竜の大進化

内村直之(科学ジャーナリスト) 協力:小林快次(北海道大学)

脊椎動物の進化史において,恐竜は巨大化,鳥化,多様化という3つの大進化を完成させたとんでもない存在である。国内外のフィールドで多くの恐竜化石を発見,同定し「ファルコンズ・アイ(はやぶさの目)」の異名を取る北海道大学准教授の小林快次は,恐竜進化の知られざる実態を次々に明らかにしてきた。「恐竜という生物を特徴づけているのは,それが生物の進化史の上でどれだけすごいことを成し遂げたのかということだと考えています。通常の種分化をはるかに超えた,とんでもなく大きな進化,いわゆる大進化(マクロエボリューション)です」と語る。

 

生物集団の中で,特定の遺伝子の頻度が自然選択や遺伝的浮動などのために変化することを「小進化」(ミクロエボリューション)という。これに対して,種分化以上のレベルの進化現象,様々な種の出現,絶滅などを「大進化」と呼ぶ。恐竜が成し遂げた大進化は,「巨大化」「鳥化」「多様化」の3つだ。恐竜は進化史上,4本の脚を持つものの中では最も巨大な生物となった。また恐竜が羽根の生えた翼によって飛翔に適応するよう進化した証拠を示す化石はいくつも見つかっており,鳥類は現代に生き残った恐竜といえる。また恐竜には多くの種があり,同じ種の中でもサイズや形が極めて多様だ。このような大進化がなぜ,どのように起こったのか。近年の研究の進展で,その過程が徐々に見えてきた。

著者

内村直之(うちむら・なおゆき)

フリーランス科学ジャーナリスト。著書に『われら以外の人類』(朝日選書,2005年),『古都がはぐくむ現代数学』(日本評論社,2013年)など。

小林快次(こばやし・よしつぐ)
1971年福井県生まれ。1995年米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。福井県立恐竜博物館勤務を経て2005年から北海道大学総合博物館助手,2009年から准教授。2016年日本古生物学会学術賞受賞。

関連記事
羽根と翼の進化」S. ブルサット,日経サイエンス2017年6月号。