日経サイエンス  2018年6月号

特集:ホーキング追悼

物理学の本質を突く問題を提起

語り:村山斉(東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構) 聞き手:滝順一(日本経済新聞社)

「例えばブラックホールに本を投げ込んだとしよう。本がブラックホールの内部にとどまっている分には問題がないが,ホーキング博士が主張するように消えてしまうとなると,(本の情報は)いったいどこにいってしまったのか。物理学の基本原理として,情報は保存される量であり,なくなってはいけない。『情報問題』は物理学の根本を揺るがす指摘であって,今に至るも議論が尽きない。ホーキング博士はいわば池の中に大きな石を投げ込んで物理学者を驚かせたようなものだ。私たちは彼が提示した問題を100年かけても考え続けなければいけない」──村山斉

 

3月に亡くなったホーキング(Stephen W. Hawking)博士は,一般相対性理論と量子力学を融合し,宇宙の有りようを説明する唯一の理論の必要性を唱え,自ら追求した。宇宙の特異点やブラックホールの量子力学を大きく発展させたが,その最大の功績は,物理学の本質を突く問題を提起し,理論物理学が追究すべき方向を指し示したことだ。ホーキング博士の研究と人生について,東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構機構長の村山斉氏に聞いた。

 

 

再録:別冊日経サイエンス229「量子宇宙 ホーキングから最新理論まで」

村山 斉(むらやま・ひとし)
東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構機構長。米カリフォルニア大学バークレー校マックアダムス冠教授,リニアコライダー・コラボレーション(LCC)副ディレクターを兼任。専門は素粒子理論。超対称性の自発的破れの研究やニュートリノの研究などで知られる。

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