
量子コンピューターの開発が,変曲点を迎えている。先頭を走るグーグルとIBMはそれぞれ,今年中に50量子ビット級のチップを動作させる計画だ。数年以内に,50〜100量子ビットのマシンが出てくるだろう。それは現在のコンピューターが決してできない高速計算をやってのける,初めての計算機になるはずだ。
ただし実用上役に立つ計算ができるかどうかは別の問題だ。このビット数では,量子コンピューターの最大の弱点であるエラーは修正できない。計算が進むにつれて失敗する確率が高くなるため,実行できる計算の規模は限られる。例えば,量子コンピューターの強みとされる暗号解読は不可能だ。
エラーを訂正しながら大規模な計算を実行するフルスペックの量子コンピューターを作るには,1万〜1億個の量子ビットを集積する必要がある。それは火星の有人探査にも似た科学のフロンティアで,実現は20年以上先になるとみられる。
ここ数年は,50〜100量子ビットコンピューターの使い方を探索する研究が進むだろう。量子化学計算や機械学習,物理系のシミュレーションなどの分野で期待が高まっている。
研究の風景も変わりそうだ。超電導量子コンピューターを開発するグーグルと,イオンを使った量子コンピューターを手がけるベンチャー企業IonQ(米メリーランド州)は,今年中にそれぞれのマシンをクラウドで公開する計画だ。クラウドで先行するIBMは,近く20量子ビットに拡張した有料サービスを開始する。量子アプリの新しいアイデアを思いついたらパソコンに向かってプログラミングし,あちこちのクラウド量子コンピューターにジョブを投げる。その結果を見てプログラムを最適化したり,ハードの改良を提案したりする。そんな時代が始まりつつある。
物理学者ファインマン(Richard Feynman)は1981年,ボストンで開かれた国際会議で,「自然は古典力学でなく量子力学で動いている。自然の振る舞いを計算するなら,量子力学的にやるべきだ」と語り,量子コンピューターの可能性を予見した。37年後の今,それが形になりつつある。今後はハードウエアからミドルウエア,化学計算やAI(人工知能)などのアプリまで,あらゆるレイヤーの研究が加速するだろう。開発のトップランナーたちは何を目指しているのか,米国で現場を取材した。
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