
「突然の連絡ですが,借金の相談とか宗教の勧誘ではありません」。
もう5年ほど会っていない先輩から,このようなメールを受け取ったのは2017年6月の頭のことだった。僕は大学で物理学の研究をしている。メールを送ってきたのは学生時代に履修していた政治学のゼミの先輩で,その後,東映に勤めていると聞いていた。
状況がよくわからないまま,とりあえず東映本社を訪ねた。そこで聞かされたのは,同社が制作しているテレビ番組『仮面ライダービルド』の主人公が物理学者なので,僕に番組のアドバイザーをしてもらいたいという話だった。具体的には,主人公が新たな武器の開発をする際に黒板に書く数式や,番組の中で効果として流すコンピューターグラフィックスの数式を書いてほしいという。
(中略)
最初の依頼は「オープニングで黒板が映るのですが,直後にライダーがバイクで走っているシーンがあるので,黒板に書くための車輪の運動っぽい式を10本ほどお願いします」(!?)というものだった。「いや,自動車工学とかならともかく,物理学にそんな式はないでしょ……」と心の中でつぶやいたが,「ありません」というわけにもいかないので,「車輪の運動の式は物理学にはないですが,運動の式ならいろいろあるので,運動方程式をメインに書こうと思います」と返信した。
オープニングシーンの撮影では,黒板に数式を書くために,僕も撮影現場に向かった。 (この続きは誌面で)
訂正とお詫び
51ページの囲み「その式,第何話?」の第14話,「フェルマー関数」とあるのは,正しくは「オイラー関数」です。
お詫びして訂正致します。※別冊では修正されています。
著者
白石直人(しらいし・なおと)
日本学術振興会特別研究員PD。1989年生まれ,2017年東京大学大学院で博士号取得。熱エンジンの効率とスピードに関する原理的限界を解明し注目される。東京大学総合文化研究科一高記念賞,第12回日本物理学会若手奨励賞受賞。Twitterアカウント@Perfect_Insiderでは,仮面ライダーに出てきた数式の解説も毎週行っている。
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