
18世紀,西欧で探検航海や植民地政策と表裏をなす「博物学の時代」が黄金期を迎えていたころ,遠く海を隔てた──のみならず,海外との交易を厳しく長崎に限っていた日本でも,軌を一にするように,博物学的な関心が多く育っていた。8代将軍吉宗が当時中国や朝鮮半島からの輸入に頼っていた砂糖や薬品類の国内自給を目指し,その意を受けた本草学者・丹羽正伯が,諸国の大名に土地の天産物を悉皆調査して絵を付した『諸国産物帳』を作らせたのである。
最終的に1000冊を超えた『諸国産物帳』は,博物学的な調査と絵図の制作手法を日本全国に行き渡らせる前代未聞のプロジェクトとなった。中でも高松藩や熊本藩からは独自の工夫を凝らした工芸品ともいえる精緻な博物画の数々が生まれ,喜多川歌麿や伊藤若冲ら,同時代の絵師たちにも影響を与えていく。博物学と美術が縒り合わせられるように発展した時代を振り返る。
解説:「博物学から生まれた進化論」,科学ライター・詫摩雅子
著者
橋本麻里(はしもと・まり)
日本美術を主な領域とするライター,エディター。公益財団法人永青文庫副館長。新聞,雑誌等への寄稿のほか,NHKの美術番組を中心に,日本美術の楽しく,わかりやすい解説に定評がある。著書に『美術でたどる日本の歴史』全3巻(汐文社),『京都で日本美術をみる【京都国立博物館】』(集英社クリエイティブ)ほか多数。
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