
国立天文台の三鷹キャンパスには,国の重要文化財がひとつある。明治13年(1880年)にドイツで製造され,翌年日本に輸入された「レプソルド子午儀」と呼ばれる古風な望遠鏡(左ページの写真。人物は国立天文台特別客員研究員の中桐正夫氏)だ。所有者は海軍省,東京大学,国立天文台と転々とし,途中,観測休止期間もあったが,明治から昭和30年代まで80年近く,星の動きを見つめ続けた。天文関連で重文に指定された施設はまだ数少なく,歴史的な価値は折り紙付きだ。
レプソルド子午儀は,私たちが一般的にイメージする天体望遠鏡とは違い,夜空に昇って沈む星の動きを追尾して,長時間観察し続けるものではない。子午儀は,星々の天球上の位置を精密に決めることに特化した望遠鏡だからだ。
再録:別冊日経サイエンス245「天文遺産 宇宙を拓いた日本の天文学者たち」