日経サイエンス  2017年6月号

医療用アイソトープが足りない テクネチウム危機

M. ペプロー(科学ジャーナリスト)

テクネチウムという物質をご存じだろうか? テクネチウムは原子番号43の元素で天然にはほとんど存在しない。しかしテクネチウム99mという放射性同位体は医療画像の撮影に不可欠で,心臓や血管の障害,骨腫瘍などの診断検査に使われている。病巣に集中したこの同位体が発するガンマ線をとらえて,CTスキャンのような断層像を得る。ところが,テクネチウム99mの製造に使われてきた原子炉が老朽化によって運転を停止し,供給が世界的に不足する事態となった。この同位体は半減期が短いので,作り置きはできない。不足を埋めるため,カナダと米国で粒子加速器などの装置を用いる新たな製法の開発が急ピッチで進んでいる。

著者

Mark Peplow

科学ジャーナリスト。本誌に執筆した記事に,ナノテクノロジーの医療応用をリポートしたものがある(日経サイエンス2015年8月号)。

原題名

Blind Medicine(SCIENTIFIC AMERICAN February 2017)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

テクネチウム99m単一光子放射断層撮影サイクロトロン陽電子放射断層撮影線形加速器