
人間の脳に関する知識の多くは,マウスやラットなどの動物実験から得られている。これらの動物の脳は人間の脳と共通する部分が多いが,表面に深く折り畳まれたしわがなく,この違いが神経機能に影響している。統合失調症からアルツハイマー病まで,様々な脳疾患の治療法を齧歯類の実験で探る研究が失敗してきたのは,人間の脳のユニークな特徴によって説明がつくかもしれない。このため,神経科学の実験を行う新手法の研究が進んだ。動物実験に代わる手段として,発生中の脳の主要部分を培養皿の上で育てる方法がある。こうした「脳オルガノイド」はマウスの実験では得られない情報をもたらしてくれるだろう。すでにジカウイルスの脳への影響を調べるのに利用されている。
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再録:別冊日経サイエンス252『脳科学の最前線 脳を観る 心を探る』
著者
Juergen A. Knoblich
ウィーンにあるオーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所のシニアサイエンティストで科学担当副所長。神経幹細胞とショウジョウバエの神経系の発生を研究している。
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「試験管で網膜をつくる」,笹井芳樹,2013年2月号。
原題名
Lab-built Brains(SCIENTIFIC AMERICAN January 2017)
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オルガノイド/多能性幹細胞/マトリゲル/神経外胚葉/ジカ熱/小頭症