日経サイエンス  2017年2月号

特集:地球外生命探査

土星の月エンケラドスは生きていた

F. ポストバーグ(独ハイデルベルク大学/独シュツットガルト大学) G. トビー(仏ナント大学) T. ダンベック(サイエンスライター)

土星探査機カッシーニの観測データによって,土星の氷衛星エンケラドスの地下には海があり,地表面から海水が噴き出し,プルームを形成していることがわかった。このプルームはエンケラドスの深部を覗き見る窓の役割を果たしている。

 

エンケラドスとそのプルームの研究から,地下にある海の温度と組成が推定された。海底に熱水噴出孔があることを示す証拠も得られた。地球にも熱水噴出孔があり,その熱水は太陽光が届かない暗黒の世界で生態系を支えており,原始生命を育んできた可能性がある。

 

エンケラドスに生命が存在するかどうかは,海がどの程度の期間にわたって存在し,熱水の噴出が続いてきたかにかかっている。エンケラドスの海と熱水活動は,衛星内部の熱源が続く限り存続する。今後の探査で,この熱源を特定し,あわよくば地球外生命第一号の発見を目指すことになる。

 

 

再録:別冊日経サイエンス223「地球外生命探査」

 

著者

Frank Postberg / Gabriel Tobie / Thorsten Dambeck

ポストバーグは土星探査機カッシーニに搭載された宇宙塵分析装置(質量分析装置)のデータ解析を担当している。惑星科学と物理学,化学に詳しく,ドイツのハイデルベルク大学とシュツットガルト大学を拠点に宇宙塵と氷衛星を研究している。トビーはフランスの惑星科学者で仏ナント大学で研究している。少年時代,NASAのガリレオ計画による木星探査に触発され,氷衛星の内部世界の研究を始めた。エウロパやエンケラドスなど氷衛星の活動が潮汐摩擦によって駆動される理論モデル作りに取り組んでいる。ダンベックはドイツの物理学者でサイエンスライター。主なテーマは天文学と惑星科学。1980年代初頭,彼は天体望遠鏡を覗いて初めてエンケラドスを目にした。当時,土星のリングは地球から見てほぼ水平になっており,この小さな氷衛星は微かな白っぽい点として見えた。

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土星の月エンケラドス 噴泉の謎」,C. ポルコ,2009年3月号。
エウロパの隠された海」,R. T. パパラルドほか,2000年2月号。
First Active Hydrothermal System Found beyond Earth エンケラドスの海に関する詳しい解説(英語)

原題名

Under the Sea of Enceladus(SCIENTIFIC AMERICAN October 2016)