日経サイエンス  2016年12月号

特集:人新世を考える

遺伝子改変人類が誕生?

S. S. ホール(サイエンスライター)

 ゲノムDNAを改変する新しい技術の登場で,標的遺伝子を容易に操作できるようになった。CRISPR/Cas9に代表されるゲノム編集技術は農作物や医薬だけでなく,ヒトの遺伝子改変にも有効だ。遺伝子疾患のほか,最近では男性不妊の治療法としても関心が寄せられている。胚の遺伝子操作に比べ,精原幹細胞の改変は心理面でのハードルが低く,目的の遺伝子のみをターゲットにする手法も確立している。しかし改変遺伝子は次世代に受け継がれるため,ゲノムを改変した新人類の誕生を危惧する声もある。人類はこの技術を制御することができるのか。技術的な課題はほぼクリアされ,体外受精クリニックで開始される日はそう遠くないとみられる。
 

 
再録:別冊日経サイエンス231「アントロポセン──人類の未来」

著者

Stephen S. Hall

多くの受賞歴を持つサイエンスライターで,がん免疫療法や組み換えDNAの歴史に関するものなど,6冊の著作がある。ニューヨーク大学でサイエンス・コミュニケーションを教えている。

関連記事
CRISPRと「組み換え」作物  バイオ農業の行方」,S. S. ホール,日経サイエンス2016年6月号。
人工臓器」,R ランガー/J. P バカンティ,日経サイエンス1995年11月号