
「首尾一貫した人だな」。2016年のノーベル生理学・医学賞の受賞者に大隅良典・東京工業大学栄誉教授が決まり,会見を聞いてそう感じた。対象となった業績は,細胞内で起きるタンパク質を分解する現象「オートファジー(自食作用)」の仕組みの解明だ。
だれも注目していなかった1988年から酵母細胞を黙々と観察し続け,生命科学の一大分野を切り開いてきた。これからもなお「教わることが多い」と酵母細胞の観察にこだわる。近年では珍しい単独での受賞に,伝統的なノーベル賞がよみがえったかのような印象を受ける。最もふさわしい科学者に,その朗報が届いた。(文中敬称略)
著者
永田好生(ながた・よしお)
日本経済新聞編集委員。科学技術分野を幅広く取材している。
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