日経サイエンス  2016年11月号

ハンチントン遺伝子のパラドックス

C. ズッカート E. カッターネオ(ともに伊ミラノ大学)

 ハンチントン病は両親いずれかの原因遺伝子に異常があると50%の確率で発症する遺伝性疾患だ。この遺伝子には「CAG」の3塩基配列が繰り返される領域があり,36個以上の反復配列を持つ人が発病する。こうした反復配列はゲノムの “がらくた”と考えられていたが,最近になって神経系の発達や進化に関わっていることがわかった。将来ハンチントン病を発症するかどうかにかかわらず,反復配列の多い人ほど特定の脳領域のニューロン数が多く,高い認知機能を示す。ハンチントン遺伝子の進化の源は単純なアメーバ細胞にあり,現在のヒトへと脈々と受け継がれてきた。有害と思われていた遺伝子には進化の謎を解く手がかりが隠されいる。

 

【関連動画】カッターネオがハンチントン病の幹細胞治療について述べたビデオ(英語)

著者

Chiara Zuccato / Elena Cattaneo

ズッカートはイタリア・ミラノ大学の生物科学科教授。ハンチントン病の病理学的メカニズムについて研究している。カッターネオは同大学生物科学科の薬理学教授。イタリア議会上院の終身議員でもある。カッターネオの研究室では20 年以上にわたりハンチントン病の研究を行い,治療法を探ってきた。両著者はこの記事を彼女らの学生と,ハンチントン病患者とその家族に捧げている。

関連記事
ハンチントン病の謎」,E. カッターネオ/D. リガモンティ/C. ズッカート,日経サイエンス2003年3月号。
病気を起こす反復配列」,紀嘉浩/笹川昇/石浦章一,日経サイエンス2004年9月号

原題名

The Huntington’s Paradox(SCIENTIFIC AMERICAN August 2016)

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