日経サイエンス  2016年10月号

細胞コンピューター

T. K. ルー O. パーセル(ともにマサチューセッツ工科大学)

 細胞は表面に付着した分子を入力として,これを一連の複雑な生化学反応によって処理し,ホルモン分泌や電気インパルスの発生といった出力を生み出している。著者ら合成生物学者たちは,細胞のこうした情報処理能力を利用して,人間が設計したプログラムを実行させようとしている。計数や足し算,データの記憶,基本的な論理演算を実行する細胞ができた。合成生物学が生んだ“細胞コンピューター”だ。通常の電子計算機と違ってノイズの多い化学信号を用いるほか,現状では機能を正確に予測できないなどの難点があり,デジタル装置に代わるものではないが,病気を診断・治療する細胞を薬として服用するなどの利用が可能になるだろう。

著者

Timothy K. Lu / Oliver Purcell

ルーはマサチューセッツ工科大学の准教授で,合成生物学グループのリーダー。同グループは生きた細胞へのメモリーや計算回路の組み込み,合成生物学の医学や産業への応用,生きた生体材料の構築を研究している。彼は米国立衛生研究所(NIH)所長新イノベーター賞などを受賞しており,2013年には合成生物学関連ベンチャー企業Synlogicを共同設立した。

パーセルは同大学合成生物学グループのポスドク研究員。合成生物学の部品の設計や,生物学的システムを合理的に設計するための新たな計算論的アプローチなど,合成生物学を幅広く研究している。

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改造バクテリア 注文通りの生物をつくる」,W. W. ギブス,日経サイエンス2004年9月号。

原題名

Machine Life(SCIENTIFIC AMERICAN April 2016)

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