日経サイエンス  2016年9月号

特集 人工知能

今,この瞬間にも世界中で膨大な数のコンピューターが猛烈な勢いで「学習」に取り組んでいる。人間と違って寝食不要で,飽きることなく24時間,集中して学習し続ける。学習の対象は自動車の運転から写真や画像の判読,音声言語,二本脚での歩き方,人々の趣味嗜好,小説の書き方,チェスや碁などのゲームまで多種多様だ。

 

しかも学習して得た能力は,その道のプロフェッショナルをしのぐレベルに達している事例が増えてきている。象徴的な例は世界最強クラスの囲碁の棋士を破ったGoogle DeepMindの「アルファ碁」やチェス名人を打ち負かしたIBMの「ディープ・ブルー」だ。情報技術の急速な進歩と天文学的な量にまで増大したデジタルデータを背景に,コンピューターの世界で大きな質的変化が起きている。「人工知能(AI)」の本格的な登場だ。

 

すでにかなり前からコンピューターは人間に勝る計算能力(演算速度)と記憶力(メモリー容量)を獲得していたが,それらをどのように活用して学習すればよいのか,方法論がよくわかっていなかった。突破口となったのは人間の脳における情報処理の仕組みを模倣した手法で,中でも「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれるアプローチが脚光を浴びている。

 

自動車の運転を任せられる人工知能や,流ちょうに通訳してくれる人工知能などはありがたいが,将来,スーパー知能マシンが登場し,人類と対立することになるのではないかとの恐れを抱く人もいる。本特集では人工知能のこれまでとこれから,社会に与えるインパクトを4本の記事で解説する。人工知能の研究開発は米国がリードしているが,日本にも世界が一目を置くベンチャー企業があり,その活躍も取り上げる。

爆発的に進化するディープラーニング  Y. ベンジオ
完全な自動運転車はできるか  S. E. シュラドーバー
スーパーAI 恐るべし?  S. ラッセル
AIベンチャー プリファード・ネットワークスの挑戦  吉川和輝

原題名

Special Report : The Rise of AI(SCIENTIFIC AMERICAN June 2016)

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