日経サイエンス  2016年7月号

20世紀文化遺産の危機

S. エバーツ(サイエンスライター)

「人類月に立つ」。アポロ計画は20世紀の科学技術を象徴する偉業だった。その宇宙服とピカピカのバイザーは過酷な環境から宇宙飛行士を守るハイテクのしるし──と思いきや,博物館に保存されている宇宙服が劣化し,バイザーにヒビが入りつつある。素材のプラスチックから腐食性の成分がしみ出し,劣化が始まったのだ。デザイナー家具や映画のフィルム,ベークライト製アクセサリー,ポップアート時代に作られた彫刻やアクリル画など,近代の文化遺産の多くはプラスチックでできている。これらが台なしになっては大変だ。背景の化学的メカニズムを考慮して,劣化の兆しを早期検出する技法や,崩れていく作品を修理する方法の開発が始まった。

 
 
再録:別冊日経サイエンス231「アントロポセン──人類の未来」

著者

Sarah Everts

Chemical & Engineering News誌のベルリン特派員。科学と保存修復に関する記事を多数執筆しており,現在は汗の科学に関する本を執筆中。

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原題名

The Art of Saving Relics(SCIENTIFIC AMERICAN April 2016)

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