日経サイエンス  2016年5月号

シリア危機を招いた気候変動

J. ウェンドル(フリーライター)

シリアから数多くの難民が海を渡って欧州諸国に逃れている。脱出途上で溺死した子供の写真が世界に大きな衝撃を与えた。悲劇を招いた原因は何だったのか? 内戦やテロ組織イスラミックステート(IS)の暴力など,民族間対立や宗教的な背景に目がいきがちだが,それだけではない。シリアでは気候変動と政府の誤った政策によって干ばつの影響が深刻化し,100万人を超す農民が土地を捨てて過密な都市部へ移住を余儀なくされた。水不足と農地の荒廃,汚職が社会の崩壊につながったという。気候科学者によると,シリアの干ばつは今後さらに頻繁になり,悪化する。この傾向は中東と地中海沿岸の全域に拡大する恐れがある。
 

 
再録:別冊日経サイエンス240「気候大異変 いま地球で何が起こっているのか」

著者

John Wendle

フリーランスのライター・写真家・ビデオグラファーで,旧ソ連やアフガニスタンにおける社会不安を報道してきた。現在は人類と環境の対立を詳しく追っている。写真作品がhttp://johnwendle.comやhttps://instagram.com/johnwendleに。

原題名

Syria’s Climate Refugees(SCIENTIFIC AMERICAN March 2016)

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