日経サイエンス  2016年5月号

体を守る苦味受容体

R. J. リー N. A. コーエン(ともにペンシルべニア大学)

甘味や苦味,酸味などの味を感じているのは,舌にある味覚受容体だ。特に苦味受容体は種類が多いうえ,鼻や気道,心臓,肺,腸などにも存在している。いったいなぜ? 苦味受容体が侵入細菌に対する素早い防御反応を誘発していることが最近の研究で判明した。有害な細菌が出す苦味物質を検知して,線毛運動で排除したり,殺菌作用のある一酸化窒素を放出させたり,抗菌タンパク質を放出させたりする。こうした苦味受容体の機能が鈍い人は感染症にかかりやすい傾向も認められた。そもそも苦味は有害物質のサインで,苦味受容体はこれを検知するセンサーとして進化したと考えられる。そのセンサーが免疫系の早期警戒部隊として働いているのは理屈にかなっているわけだ。
 

 
再録:別冊日経サイエンス234「最新免疫学 がん治療から神経免疫学まで」
再録:別冊日経サイエンス222「食の未来 地中海食からゲノム編集まで」

 

著者

Robert J. Lee / Robert J. Lee

リーはペンシルべニア大学ペレルマン医学大学院耳鼻咽喉科・頭頸部外科と生理学科の助教。分子生物学者として10 年以上にわたって鼻と肺の上皮細胞を研究している。コーエンはペンシルべニア大学耳鼻咽喉科の准教授。15年の臨床経験を持つ外科医で,同大学の鼻科研究を率いている。

原題名

Bitter Taste Bodyguards(SCIENTIFIC AMERICAN February 2016)

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苦味受容体慢性副鼻腔炎自然免疫系