日経サイエンス  2016年5月号

大特集:重力波

 

アインシュタインの予言から1世紀を経て重力波が直接観測された。重力波は時空の歪みが波の形で光速で伝わる現象だ。その存在は1970年代,中性子星という超高密度のコンパクトな天体2つからなる連星の観測から間接的に検証されている。公転運動のエネルギーの減少量が,重力波が運び去るエネルギー量の理論値とよく合ったからだ。天体からの重力波は太古の昔から到来していたとみられるが,重力波が伝える時空の歪みは極微で,過去100年の科学技術の進展によって直接観測が成し遂げられた。

 

今回の重力波は観測された日付(2015年9月14日)からGW150914と名付けられた。GWはGravitational Wave(重力波)の略だ。その波形は一般相対性理論による重力波の予想とぴったり合い,GW150914は約13億光年彼方にある,ブラックホール2つからなる連星の合体の際に生じたものであることがわかった。GW150914によって,宇宙を見る新たな窓,「重力波天文学」が開かれることになった。

 

特集は6部構成。第1部は重力理論に造詣が深いカリフォルニア工科大学の大栗博司教授による重力波直接観測の意義に関する寄稿で,第2部では重力波とは何かをわかりやすく簡潔に解説する。第3部はGW150914の詳報で,第4部は世界が注目する日本の重力波望遠鏡KAGRAの紹介だ。第5部ではGW150914とはタイプが違う「原始重力波」を取り上げる。第6部は原始重力波と強い結びつきがあるインフレーション理論の提唱者で,KAGRAにも深く関与している自然科学研究機構の佐藤勝彦機構長へのインタビューだ。

 

重力波の直接観測 3つの意義  大栗博司
重力波とは何か  編集部
GW150914の衝撃  中島林彦/協力:大橋正健,田中貴浩
KAGRA始動  中島林彦/協力:大橋正健,田中貴浩
ビッグバンから上がるのろし 原始重力波に挑む  L. M. クラウス
「宇宙の初期シナリオに新たな視点」  語り:佐藤勝彦

サイト内の関連記事を読む