日経サイエンス  2016年2月号

姿現す肥満遺伝子

R. J. ジョンソン(コロラド大学) P. アンドリュース(ロンドン自然史博物館)

 肥満は健康上の大問題だが,その要因の1つとして,脂肪を貯めやすくする肥満遺伝子が注目されている。尿酸を分解する酵素ウリカーゼに遺伝子変異が生じると,果糖を脂肪に変換しやすくなる。ウリカーゼ遺伝子の変異は,ヒトと現生大型類人猿の共通祖先だった類人猿に生じたもので,寒冷化による食物不足に苦しんだ時代,少ない食物を効率的にエネルギーに変える変異は生存に有利に働いたと考えらる(そのため肥満遺伝子は倹約遺伝子ともよばれる)。人類史を振り返れば,より深刻なのは肥満ではなく飢餓だったわけだが,不活性化したウリカーゼ遺伝子は,飽食の現代人にとって糖尿病や心疾患のリスクを高めるありがたくない存在だ。

 

 
再録:別冊日経サイエンス237「食と健康」
再録:別冊日経サイエンス225「人体の不思議」

 

【関連情報】著者のインタビュー(英語)The Hunt for the Fat Gene

著者

Richard J. Johnson / Peter Andrews

ジョンソンはコロラド州オーロラ市にあるコロラド大学アンシュッツ医療キャンパスの内科教授。肥満や糖尿病,高血圧,腎臓病の原因について研究している。500を超える研究論文を執筆しており,一般書には「The Sugar Fix」(Rodale,2008 年)と「The Fat Switch(Mercola. Com,2012年)がある。アンドリュースはロンドン自然史博物館の名誉科学研究員で,ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの人類学科教授。化石類人猿の新属や新種を数多く報告してきた。また,今日の類人猿とヒトの祖先がアフリカの外で進化したと唱えた最初の研究者の1人でもある。

原題名

The Fat Gene(SCIENTIFIC AMERICAN October 2015)

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