
葉の表面にある気孔の形成プロセスを分子レベルで解明すると
動物をも含む多細胞生物に共通する発生のメカニズムが見えてきた
4億年以上前,オゾン層ができて有害な紫外線が遮断された陸上に植物が進出した。海では,私たちの祖先となる魚類が登場した頃のことだ。上陸した植物は水分の蒸発を防ぐため,体表面をロウで覆うと同時に,光合成に必要な二酸化炭素を大気から取り込まねばならなかった。その解決策が「気孔」 だ。小さな穴を葉の表面にたくさん並べ,必要に応じて開閉させる。日米に研究拠点を置く鳥居啓子は,気孔ができる仕組みの分子レベルでの解明で世界をリードする。 (文中敬称略)
顕微鏡で見た気孔は人の口に似ている。唇に相当するのが一対の「孔辺細胞」。これらが変形することで気孔が開閉する。気孔の役割や開閉のメカニズムは古くから研究されてきたが,葉の表皮細胞の一部がどのようにして孔辺細胞へと変化するのか,そのプロセスは今世紀になるまでわかっていなかった。それを明らかにしたのが鳥居だ。
鳥居啓子(とりい・けいこ) 米ワシントン大学(シアトル)教授・名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所客員教授。 1965年東京都生まれ。米国の高校を卒業後,筑波大学に。同大学大学院生物科学研究科で博士号取得。東京大学での日本学術振興会特別研究員,エール大学やミシガン大学でのポスドク研究員などを経て,1999年にワシントン大学(シアトル)生物学部助教授。同大学准教授を経て2009年から現職。2011年より米ハワード・ヒューズ医学研究所の正研究員,2013年より名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所客員教授・海外主任研究者(いずれも兼務)。