
今年もノーベル賞の季節がやってきた。どんな研究業績が対象になり,3人の受賞枠に誰が選ばれるのか。9月から10月初めにかけて大手の学術情報企業や内外のメディアが予想を発表,研究者や個人はブログなどで賞の行方を占う。自然科学分野のノーベル賞の選考を担うスウェーデン王立科学アカデミーとカロリンスカ研究所が受賞者を発表する瞬間まで,様々な研究業績が新聞雑誌やネットで取り上げられる。
本誌はこの時期をとらえ,世界で注目されている研究フロンティアを紹介する特集を編んだ。温暖化やエネルギー危機など,地球規模の問題の解決に科学技術が果たすべき役割はますます大きくなっており,近年,技術的ブレークスルーにノーベル賞が授与される事例も増えている。
第1部では世界的な業績を上げてノーベル賞を受賞した4人の研究者が,今どんなことに関心を持っているのか,どんな問題意識を抱いているのかをインタビュー形式でまとめた。物理学賞は小林誠,天野浩,化学賞は根岸英一,生理学・医学賞は利根川進の各氏だ。すぐにではないにしろ,紹介されたテーマの業績でノーベル賞を獲得する研究者が出る可能性が高い。
著者
物理学賞:小林 誠/天野 浩 / 化学賞:根岸英一 / 生理学・医学賞:利根川 進
物理学賞を受賞している小林氏は高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授。1944年愛知県生まれ。専門は素粒子理論。自然界における粒子と反粒子の間の振る舞いの微妙な違い「CP対称性の破れ」を説明する「小林・益川理論」を益川敏英氏(現名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長)と共同で提唱した。2008年,益川氏とノーベル物理学賞を共同受賞した(南部陽一郎氏も素粒子論の礎となる「対称性の自発的破れ」の業績で同年同賞を受賞)。 天野氏は名古屋大学教授。1960年静岡県生まれ。専門は半導体工学。青色LED(発光ダイオード)を赤﨑勇氏(現名古屋大学特別教授・名城大学終身教授)と協力して世界で初めて開発,低消費電力長寿命のLEDによる白色光源の実用化に道をつけた。2014年,赤﨑氏とノーベル物理学賞を共同受賞した(青色LEDの実用化を主導した中村修二・現カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授も同年同賞受賞)。
化学賞を受賞している根岸氏は米パデュー大学特別教授。1935年,中国・長春生まれ。専門は触媒化学。パラジウム触媒で有機化合物を効率よく作る「クロスカップリング反応」の創出で主導的役割を果たし,鈴木章北海道大学名誉教授,リチャード・ヘック米デラウェア大学名誉教授と共同でノーベル化学賞を2010年に受賞。
生理学・医学賞を受賞している利根川氏は米マサチューセッツ工科大学教授 ,理化学研究所脳科学総合研究センター長。 1939年愛知県生まれ。専門は分子生物学と脳科学。免疫グロブリンという抗体に多様性をもたらす仕組みを遺伝子レベルで解明。1987年にノーベル生理学・医学賞を単独で受賞。