日経サイエンス  2015年10月号

特集:暗黒物質に異説

WIMPではなくてSIMP

語り 村山 斉(東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構)

暗黒物質(ダークマター)の有力な新説が登場した。現在の暗黒物質の最有力候補は「WIMP」。極微の世界を支配する力の1つ「弱い力」に似た相互作用をする重い粒子(Weakly Interacting Massive Particle)だ。弱い力は原子核の崩壊を起こしたり,太陽が燃えるのに必要な力として知られる。一方,新説が推すのは「SIMP」。極微の世界を支配するもう1つの力,「強い力」とそっくりの相互作用をする重い粒子(Strongly Interacting Massive Particle)だ。強い力はクォークどうしを結びつけて核子(陽子と中性子)を形成し,さらには核子どうしを結びつけて原子核を形成する力で,文字通り弱い力より桁違いに強力だ。暗黒物質が持つ相互作用に関してSIMPはWIMPと全く異なり,質量もかなり違う。しかしSIMPはWIMPと同様,宇宙に存在する暗黒物質の特性と総量を説明できるうえ,WIMPでは難しい銀河レベルの暗黒物質の分布状況を再現できる。新説を提唱したのは東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の村山斉機構長のほか米国とイスラエルの4人の研究者。村山機構長がSIMPのエッセンスを語った。

著者

村山 斉

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)機構長,米カリフォルニア大学バークレー校マックアダムス冠教授,リニアコライダー・コラボレーション(LCC)副ディレクター。専門は素粒子理論。超対称性の自発的破れの研究やニュートリノの研究などでよく知られる。

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