
日持ちが良く病気に強い理想のトマトを世に出そうと
新世代の遺伝子操作技術,「ゲノム編集」による品種改良に挑む
手塩にかけて育てた実験用トマトのライブラリーが大きな強みだ
筑波大学の一画にある温室を訪ねると,おいしそうな小さなトマトが所狭しと実っていた。「食用のミニトマトではないんです。マイクロトムという実験用のトマト。小さくて室内でも育てやすく,普通のトマトの性質を持っています」と自慢の我が子を紹介するような笑みを浮かべる。授粉の手間がいらないトマト,人工甘味料の代替になるような甘み成分を生み出すトマト,日持ちが良いトマト──。江面浩はマイクロトムを使って有用な性質を持つ遺伝子を次々と突き止め,品種改良で様々なトマトを生み出してきた。開発のスピードを大幅に加速しようと,現在,力を入れているのは「ゲノム編集」による品種改良だ。 (文中敬称略)
一般に農作物の品種改良では,交配を繰り返して有用な性質を持つ個体を選抜し,新品種を育てる。遺伝子の変異を示すDNAマーカーを目印に使って,狙った性質を持つ個体を判別して効率化を図るとはいえ,それでも数年かかる。「特に野菜や花は消費者の好みが変わりやすく,新品種を開発しても10年ともたない。数年かかって開発していては種苗会社の負担が大きく効率が悪いのが課題です」。
江面浩(えづら・ひろし) 筑波大学大学院生命環境科学研究科遺伝子実験センター教授。1960年茨城県生まれ。1986年筑波大学大学院生物科学研究科単位取得満期退学,同年より茨城県園芸試験場(現茨城県農業総合センター),2000年筑波大学助教授,2005年より現職。専門は遺伝育種科学,園芸科学,応用分子細胞生物学。