日経サイエンス  2015年7月号

特集:炎熱のブラックホール

時空の終端 ファイアウォール

J. ポルチンスキー(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)

 ブラックホールから粒子が漏れ出すというホーキングの発見は,物理学の理解に残るギャップを露呈した。この「ホーキング放射」はブラックホール内部で情報が破壊されることを意味するように思える。しかし,量子力学は情報の消失を禁じている。「情報のパラドックス」と呼ばれる難題だ。この解決を目指して,ひも理論に基づく理論研究が進んできたが,最近の研究はブラックホールがさらに厄介な存在であることを示している。著者らの計算によると,ブラックホールの周囲には高エネルギー粒子でできた「ファイアウォール」がある。この壁は空間そのものの終端なのかもしれない。ファイアウォールのパラドックスを解決することは,量子力学と一般相対性理論の統合に向けた道筋を提供してくれる可能性がある。

 

 

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Black Hole Firewall Mystery: Submit Your Questions for Physicist Joseph Polchinski

 

再録:別冊日経サイエンス215 「重力波・ブラックホール 一般相対論のいま」

著者

Joseph Polchinski

カリフォルニア大学サンタバーバラ校の物理学の教授で,同所にあるカブリ理論物理学研究所の終身メンバー。「双対性がどのように働いているのか」と「量子重力とは何か」という2つの大問題に導かれ,理論物理の幅広い領域を研究している。余暇にはサンタバーバラの丘陵でサイクリングを楽しんでいる。

原題名

Burning Rings of Fire(SCIENTIFIC AMERICAN April 2015)

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