日経サイエンス  2015年6月号

バクテリア社会の弱点を突く

C. ジンマー(サイエンスライター)

 抗菌薬の効かない病原菌が増えて院内感染などが深刻な問題になっている。薬剤耐性が進化するのは,抗菌薬に強い変異株がもともと少数いて,耐性のない菌が死滅した好条件のなかでそれが急激に増えるためだ。これは進化の理にかなっているので,新たな抗菌薬を開発してもいたちごっこになる。そこで,「社会微生物学」という新分野の研究から,耐性の進化を回避する新しいアプローチが提案された。細菌が集団全体で共用している物質を阻害し,細菌どうしの協力やコミュニケーションを妨げる方法だ。進化論的に考えると,そうした阻害薬に対する耐性は出現しにくい。細菌との闘いで敵役だった進化が味方になるはずだ。

 

 

【関連動画】New Tools against Biofilms

 

 

再録:別冊日経サイエンス221「微生物の脅威」

著者

Carl Zimmer

New York Times紙のコラムニストで「Evolution: Making Sense of Life」など13冊の著書がある。本誌での最近の記事は,「『地球最古の岩石』論争」(日経サイエンス2014年6月号)。

原題名

A Weakness in Bacteria's Fortress(SCIENTIFIC AMERICAN January 2015)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

抗菌薬薬剤耐性社会微生物学バイオフィルムシデロフォア