日経サイエンス  2015年3月号

インフルエンザの不思議 抗原原罪

A. J. クチャルスキ(英ロンドン大学)

多くの感染症は一度かかると終生にわたる免疫ができ,再び罹患することはない。だがインフルエンザは別だ。ウイルスが年々少しずつ変異し,免疫系の防御から逃れる。そして奇妙なことに,インフルエンザウイルスに対する免疫は年少の子供でピークに達した後に中年の人では低下し,高齢者になると再び上昇する傾向がある。免疫系が最初に出会ったウイルスの印象を引きずり,後に微妙に変異したウイルスに対しても同じように反応する結果,最適な防御ができなくなっているらしい。「抗原原罪」と呼ばれる現象だ。数理モデルを用いた近年の研究によって,この仮説を裏づける証拠が得られている。

【関連動画】

再録:別冊日経サイエンス238「感染症 ウイルス・細菌との闘い」
再録:別冊日経サイエンス234「最新免疫学 がん治療から神経免疫学まで」

著者

Adam J. Kucharski

ロンドン大学熱帯医学衛生学大学院・感染症疫学講座のリサーチフェロー。

原題名

Immunity's Illusion(SCIENTIFIC AMERICAN December 2014)

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