![]() Illustration by Edel Rodriguez |
フェミニズム運動で知られるスタイネム(Gloria Steinem)は「女性は常に過去の等しい半分であった。ただ歴史の等しい半分でなかったにすぎない」と述べた。まさにその通りで,私たちは近年,グーグル・ドゥードゥル(その日に合わせてデザインを変えた検索エンジンGoogleのロゴ)に関して実に醜悪な事実を発見した。当社は1998年の創業以来,その日が誕生日にあたる特定の人物にちなんでこの装飾デザインを作ってきたが,最初の7年間に女性は1人も登場していない。2010〜13年はやや改善したものの,女性は約17%,白人以外の男性が18%,白人以外の女性は何と4%にすぎない。62%は白人男性だった。
このアンバランスに私たちは気づいていなかった。だがウェブが気づいた。男女平等を訴える人たちが計数し,私たちを糾弾した。この一件は私たちが継承した無意識の偏見を映し出している。問題はグーグル一社をはるかに超える。科学と技術の職場で,いや文化一般のなかで,女性とマイノリティーは見えていないのだ。
女性は米国の労働力の半分を構成し,科学・技術・工学・数学(STEM)分野の職の約30%を担っているが,ファミリー映画や子供向けテレビ番組に登場する女性のうちSTEM分野で働く人物として描かれているのは21%に満たない。ファミリー映画におけるコンピューター関連職ではこの比率はさらに低く,男性15人に対し女性1人の割合だ(これらの数字は家庭向け・子供向けメディアにおける女性の描かれ方を調べているジーナ・デイヴィス・ジェンダー・イン・メディア研究所による。グーグルはこの団体に2013年のグローバル・インパクト・グラントを贈った)。
ビジビリティー(見えること)は重要だ。ある職業に自分と似た人が描かれているのが非常に少ないと知ると,性別・人種がバランスよく描かれている場合に比べ,人は(特に女の子と非白人学生は)疎外感を覚えて不安になる。これは気力を損なうプレッシャーとなりかねず,ついにはコンピューター科学を志す女性やマイノリティーが減ってしまうだろう。あるいはこの分野に職を得ても続かなくなる。
ドゥードゥルの数字に衝撃を受けた私たちは目を覚まし,コンピューター科学を学ぼうと女の子を動機づけているのは何なのかを特定するプロジェクトを始めた。そこでの発見は既知の事実を裏づけるもので,自分の能力に自信を持つには親や教師による励ましが不可欠だ。また,仕事自体を理解することに加え,その影響と重要性を知る必要がある。ともかくやってみる機会を得て,この分野に触れる必要がある。そして最も重要なことに,このハイテク産業でいろいろなチャンスが自分を待っていることを理解する必要がある。
急成長しているコンピューター科学産業は他の模範となるしっかりした人材開発が求められている。このためグーグルは去る6月,「メード・ウィズ・コード」という取り組みを始めた。3年間に5000万ドルをかけ,女子をコンピューター科学にいざなうキャンペーンや教育の試み(ガールズ・スカウトやガールズ・インク,ガールズ・フー・コードなど)を支援する。2012年にはプロの女性開発者を集めた組織「ウィメン・テックメーカーズ」を立ち上げた。技術分野ですでに活躍中の女性やマイノリティーのビジビリティーを高めるのが1つの狙いだ。なかには我々の業界でも最も重要で影響力のある先駆者が含まれており,裏返していえば,ビジビリティーの欠如が深刻であることを示している。
女性とマイノリティーをハイテク分野から遠ざけている悪循環は,こうした教育プログラムの手が届かない早期から生じうる。子供たちがごく幼いうちに偏見を獲得し,それが知らず知らずのうちに親や友人,同僚,メディアによって強まるのだ。善意の人々であっても,そうした偏見が行動や意思決定に表れる場合がある。それは少年少女の進路選択に影響するほか,職場の文化が排他的になったりする。
こうした偏見と闘うため,グーグルは2013年5月に「アンコンシャス・バイアス」と名づけた社員教育活動を始めた。私たちが持つ偏見について知り,多様な視点を包含するものに自分の行動と企業文化を変えるための手段と知見を提供する。これまでに2万人を超える社員が教習を受けた。
ハイテク分野が女性とマイノリティーの包含に向けて改善しつつあると知らせるだけで前向きの効果があることが,科学研究によって示唆されている。テュレーン大学のシェーファー(Emily Shaffer)らは最近,STEM分野でどれだけ女性の比重が増しているかを述べた記事を読むだけで女子学生の数学などの成績が向上し,男女の成績差が解消することを見いだした。
この研究に力を得て,私たちはメディア関係者に働きかけるアウトリーチ活動を始めた。テレビ番組から受ける印象を変えるのに力を貸してくれるかもしれないハリウッドの有力者や作家,監督,プロデューサー,俳優,スタジオ関係者などだ。ケーブルテレビ局HBOが制作しているドラマ『シリコンバレー』の脚本チームをグーグルに招き,とびきりのハイテク女性社員と技術革新について語り合ってもらった。ドラマの将来の登場人物のヒントになるだろう(と期待している)。
スタイネムはこうも述べている。「女性を世界に合わせようとは考えるな。世界を女性に合わせることを考えよ」。私たちの業界は,業界内でこれまで見過ごされてきたイノベータ―たちをより適切に遇するよう自分たちとハイテク文化を変えていくための知恵を重視し始めたばかりだ。これは優れた才能を生かすためだけでなく,よりよい製品を作るためにも重要だ。
ドゥードゥル担当のチームが例のアンバランスを正すのに取り組み初めて1年以上たった。2014年夏の時点で,この年にホームページに掲載した51件のドゥードゥルのうち女性にちなむものは49%となった。白人以外の人は全体の約33%で,2013年の数字を上回ってはいるものの,まだ改善の余地がある。
ハイテク業界が無意識の偏見の存在に気づいたいま,グーグルの革新文化は私たちが変革のリード役になるチャンスを与えてくれている。現実を直視して改善に向けて協力するのは私たち自身だ。意識を高めることで,私たちの文化の欠点を正す方法を発見し,デバッグし,革新し,先導することができるだろう。(編集部 訳)
著者
Brian Welle / Megan Smith
ウェレーはグーグルのピープル・アナリティクス部長。スミスはグーグルXの副社長。
原題名
Becoming Visible(SCIENTIFIC AMERICAN October 2014)