日経サイエンス  2015年2月号

特集:世界の科学力 多様性を求めて

最良のアイデアを求めて

S. C. ヒル(ロッキード・マーチン)


Illustration by Edel Rodriguez

1996年,若かったアフリカ系米国人の私はロッキード・マーチンで米海軍の特命を帯びた開発チームのリーダーに指名され,全力を尽くそうと心に決めた。

 

コンピュータープログラムの作成に打ち込んできたので,ソフトウエア技術者としての自分の能力には自信があった。だが,今度の仕事はソフト開発よりもはるかに幅が広い。海軍の垂直離着陸機向けに先進的な離着陸制御ユニットを開発するという任務だった。

 

16ビットコンピューターと原始的な入力キーパッド,磁気テープ装置を用いた先代システムに代えて,VMEバスに基づく166メガヘルツのパワーPCプロセッサーとタッチスクリーン式のグラフィカル・ユーザーインタフェースなど容易に入手できる既製品の技術を組み込んだ新しいユニットを設計する。iPadでタッチスクリーンが大はやりする前の話だ。海軍が将来を見込んで既製品技術の導入を試みた最初期のプロジェクトに属する。システムには近くで敵弾が爆発しても耐えられる頑丈さも必要とされた。そして速やかに,適切な価格で提供しなければならなかった。

 

問題の複雑さと納期,必要とされる技術的革新を考えると,職業的・個人的なバックグラウンドの異なる多くの人の創意を結集する必要があった。私たち約30人のチームには肌の色が異なる人と女性が数人おり(当時のこの業界としてはかなり多い),ベテランと若手が健全に混在していた。私はチームリーダーとして,人種と性別,年齢の異なる人たちを包含する雰囲気を確立する必要があった。

 

成功には包含的で皆が共有する環境が肝要であると私が確信したのは,このチームの専門的技能の多様性による。チームにはシステム技術者とソフトウエア技術者,電気技術者,ヒューマンファクター技術者がいた。衝撃減衰の専門家もいれば,電磁パルスやシミュレーション試験システムの専門家もいた。それら全員が意見交換してアイデアを出し,それらをたたき合って,より強固なものに変える作業を繰り返す必要があった。

 

それは多様性がもたらす好ましい環境というだけではなく,多様性を必要とする環境だった。私たちはその環境の確立と維持に成功したので,顧客が求めている性能のシステムを提供することにも成功したのだ。

 

私はリーダーとして,チームメンバーが自分の考えを表明できる雰囲気,仲間とは異なるアイデアであってもそれを表明できる雰囲気を醸成する必要があった。誰かのアイデアを検討もせずに退けることは許さなかった。また,知らないのは自分だけかもしれないと恐れて発せられずに終わってしまうことが多い問いを,気軽に尋ねられる環境を整えた。この種の問いを早い段階で発することで全員がその問題をクリアし(実のところ,そうした疑問は他の多くの人も持っているものだ),時間を効率的に使えるようになった。

 

リーダーとしての心配の1つに,気軽に発言しにくい雰囲気のせいで最良のアイデアが表明されずに終わってはいないか,という懸念があった。

 

あるとき,若い技術者の隣に座ったことがある。部屋にいるのは彼よりも経験豊かな先輩ばかりだ。彼は何かを言いたがっているのだが,先輩たちの発言が続いて言い出しかねているのに私は気づいた。そんな状況が少し続いた後,私は議論をストップして,彼に向かって意見を求めた。すると彼は誰も考えていなかった提案を述べ始めた。リスキーな考案で,当初はメンバー全員が懐疑的だったが,最終的にはこれを採用することになり,そして客先にも非常によい結果を出した。

 

チームリーダーを務めた経験から私が得た最も重要なことはおそらく,多様性に関する自分の理解をインクルージョン(包含)というより広い概念に発展させるのにこの経験が役立ったということだろう。年齢や性別,肌の色,民族など,職場の多様性としてまず思い浮かぶ属性は目で見て特定しやすいものが多く,そうした多様性のある環境を醸成するには意識的な努力がいる。あなたが目にしている多様性は,多様な思考を尊重する包含的環境を示す指標であることが多い。多様な人に門戸を開いたダイナミックなチームは,専門や教育,社会経験が様々に異なる人々からアイデアを引き出すだろう。

 

最良のチームが単なる部分の総和以上であるのは自明の理だ。ただ,それがいえるのは,そうした「部分」が多様である場合に限ると私は確信している。皆が同じ見かけで,同じように行動し,同じように考えていたら,従来と異なる革新的なアイデアを受け入れられないのは当然だろう。革新的アイデアを生み出すこともできまい。

 

この考えに理解があるだけでなく意識的にその道を選択した組織に勤務している私は幸せ者だ。別の選択をした組織は,ぬるま湯的な凡庸に甘んじるしかない。秀でた成果を追求するなら,それは問題外の選択肢だ。(編集部 訳)

著者

Stephanie C. Hill

ロッキード・マーチン・インフォメーション・システムズ&グローバル・ソリューションズの副社長。

原題名

In Pursuit of the Best Ideas(SCIENTIFIC AMERICAN October 2014)

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